2020年放映中のNHK朝ドラ「スカーレット」は、滋賀と大阪が舞台で、自然な関西弁でのセリフ回しも話題になっています。
大学生時代に関西人同士の会話の面白さに衝撃を受けて、必死で仲間入りをしていた頃に感じたことを思い出して、
今ならなぜあのころ「関西弁っていいなぁ」と感じたのか言語化できるかなと思い、文章にしてみました。
結論から言うと、
関西弁のイントネーションだけが面白いんじゃなくて、
その底にある相互コミュニケーションの文化が面白いんだと思っています(個人の感想です)。
静岡出身、イントネーションはほぼ標準語で方言には何のアイデンティティーも持たない当時の田舎学生が感じた、関西弁が持つ魅力を語ってみたいと思います(しつこく、個人の感想です^^)。
朝ドラ「スカーレット」は滋賀・信楽が舞台
おかげさまで、朝ドラを見ることができる生活をキープしております^^。
現在放映中の「スカーレット」は、焼き物の里・信楽を舞台に、女性陶芸家の波乱万丈な人生を描く物語です。
大阪も、主人公が一時期働いていたり、かかわりが深い土地になっています。
ドラマも面白いし、その後の「あさイチ」での博多華丸さんの「朝ドラ受け」も楽しみなんですが、
関西弁の会話、特に夫婦役の戸田恵梨香さんと松下洸平さんのやり取りがほんわかいい感じで、相手を思いやる気持ちがよく伝わってきます。
昨年12月の放送回では、関西弁独特の「ノリツッコミ」で心の距離が縮まっていく様子がかわいらしくてとてもよかったです。
これは関西弁コミュニケーションの良さが出ている好例ではないかと。
喜美子と八郎のノリツッコミ
ⒸNHK
「スカーレット」第55話(2019年12月2日放送)より
喜美子:うち 中学出て 大阪に働きに出たんです。
八郎:そうなんですか。
喜美子:戻ってきてから絵付けを始めました。始めてからは もう絵付けに必死で。絵付け以外のことは目に入っても心に留まらんかった。
八郎:ほな 陶芸をやったことは…。
喜美子:ないです 一度も。土を練ったこともない。
八郎:そうなんや…。
喜美子:ほやから見てたい。ずっと見てたい。
八郎:そんなん…改めて言われたら恥ずかしいな…。
喜美子:えっ 何 今更?
八郎:いや… 何や 見られてることを急に意識してしまうさかい…。
喜美子:いやいや いやいや 何 今更?
八郎:いや ほんまに。
喜美子:ええ? ほな… こんな目ぇして見ときましょか。
八郎:それ やらしいんちゃう?
喜美子:ええ? ほな 閉じましょか? 見えへんやん!
八郎:何 言うてんねん。
喜美子:ほな… あっ この戸の向こうに隠れて…。
八郎:うん?
喜美子:見えへんやん!
八郎:何やってんねん。
喜美子:ほな ほな… あっ こういう感じでおるかおらんか 分からへんような感じで見てます…。
八郎:いや おるやん。
喜美子:気のせい。
八郎:気のせいちゃう。おるやん。
喜美子:おらん。
八郎:あら ほんまや おらんな。って おるやん!
(笑い声)
八郎:もう やめえ やめえ。
喜美子:恥ずかしい言うから。
八郎:もう分かった。
喜美子:えっ?
八郎:分かりました。
喜美子:ほな ええ? ここにいてもええですか?
八郎:しゃあないなあ…。座って見ときな。
喜美子:はい。
八郎:フフフフ…。
喜美子:えっ?
八郎:フフフフ…。
喜美子:ええ 何? 怖い怖い 何?
(笑い声)
喜美子:えっ 何 何? 怖い怖い 何や?
八郎:さっきの… もうええです。
喜美子:ええことないよ 何です?
(笑い声)
八郎:違う 思い出して…。
喜美子:ああ 思い出し笑いか。
八郎:こんな顔してたで。
喜美子:してへんよ!真面目にやりぃ。
八郎:どっちがや!
(笑い声)
喜美子:しっかり見させてもらうで!
八郎:はい 見とって下さい。
喜美子:はい ちゃんと見ときます。
喜美子の再三のボケに、最初は即ツッコミを入れていましたが最後にとうとう乗っかった八郎さん、の図。
ボケ倒した喜美子の勝利ですね(笑)
最後は二人で笑って、いい感じになってる。
あーもう…この二人いいカップルになりそうじゃん!と思わせる、とてもいいシーンでした。
ところで凄いでしょ、書き起こし。
こちらのサイトを参考にさせて頂きました。有難うございます。
● スカーレット(55話12月2日)
八郎「気ぃ付いたら自然と好きになってた」 | テレビネタ!
まずは相手の会話にのっかる
このノリツッコミというテクニック、
ご存知のように、一度相手の言ったことに乗っかって、それに対してツッコミをいれるというものですが、
この「一旦乗っかる」文化は関西独特ですね。
- 相手のボケにうまいこと乗っかるノリの良さと、
- ツッコミをいれる間のとりかた、
- さらにボケを広げる応用力、
会話の反射神経とおもしろ方向の頭の良さが必要ですが、
うまく反応できると「おまえなかなかおもろいなぁ~」という妙な連帯感が生まれます。
コミュニケーション成立!ですね(笑)
ノリツッコミの使い方・実例については、この記事がわかりやすかったです。
参考動画(上記リンクより):
● 大阪の人 のりつっこみ (リターンズ)
● 秘密のケンミンショー ノリツッコミ2012
いやぁ~この動画おもしろい。
突然の物ボケにどう反応するかの街頭インタビューですが、さすが大阪!
YES,BUT、YES,YES,YES,BUT
ところでこの「ノリツッコミ」、
会話術やコミュニケーション術の「YES,BUT法」に通じるものがあります。
YES,BUT法とは、相手の意見をいきなり否定するのではなく、反論の前に相手の意見を意見を一旦肯定して(YES)、「でも(BUT)」と自分の意見を伝える話し方です。
ワンクッションおく、という意味の「クッション話法」のひとつです。
相手からすると、言ったことをいきなり否定されたら腹が立つし、違う意見も聞いてやろうかという気分にはなりません。いきなり対立の構図になってしまいます。
そこでまず相手の言うことを肯定してあげて、「この人は私の言うことをちゃんと聞いてくれる」という安心感を与えてから、じわっとこちらの意見を伝えるわけです。
YES,BUTの進化系として、
YESを3回重ねてからBUTをいう「YES,YES,YES,BUT」、
他にも「YES,AND」「YES,SO THAT」「YES,IF」「YES,HOW」「YES,WHAT」などの応用編があるようです。
参考リンク:
● イエスバット(yes but)法は時代遅れ!もっと凄い・使える「5つの話法」
いずれも最初に「YES」があって、相手の意見に一旦乗っかります。
ボケに乗っかるか、意見に乗っかるかの違いはありますが、
相手の言うことを一旦受け入れてから次に進むというところに「ノリツッコミ」との共通点があります。
これは私の推測ですが、
関西の人にはこの「YES,BUT」が自然にできる人が多かったり、理解が早かったりするのではないかしら。
…と書きながら、関西方面出身の友人たちの顔を思い浮かべてみる。
…そんな気がします(期待を含めて^^)
「嫌み」を「ボケ」に変換して切り返す技
上でご紹介した動画のように大阪の皆さん、相手がボケてきたら喜んで乗っかってますが、
ボケる側からすると、相手がどういう反応をするのか探っている(楽しみにしている)という側面もあります。
コミュニケーションのひとつですね。
ところで、自分の言葉に対する相手の反応をみるという点では、
何かと「嫌み」を言う人も同じですね。
自分の言葉が相手に与えるダメージを楽しんでいるようなさみしい人、いませんか?
そういう人に絡まれて何も言わずに耐えるのはつらいもの。
その場で何かひとつ言っておくことは気持ちの上でもプラスです。
多くの場合ガチンコで反論するのは得策ではなくて、できれば当たり障りない反応でやりすごして、相手の攻撃が効いていないことを示したい。
そんなときに使えるのが、「嫌み」を「ボケ」に変換して「ノリツッコミ」で返す、という技です。
嫌みの効果がないとあきらめて、そのうち相手にしなくなってくれるかもしれません。
嫌みについてのいい実例を思い出せないので、昨年末からの私の新しい職場での会話を二つほどご紹介します。
先輩が振ってきたちょっと失礼とも思える会話に、
私はどう答えたでしょうか(笑)
昼休み、ちょっと美味しいお店情報(チェーン店)で
先輩:「きみのところみたいな田舎にはないかもしれないけどさー」
例①:「いえ、ありますけど」
例②:「失礼ですねー田舎じゃないですよ」
例③:「そうそう、駅まで山ふたつ越えなきゃいけなくてね、駅前には郵便局しかなくて、…ってどんな田舎だと思ってるんですか!」
はい、もちろん③ですね。
ちなみに商店街もあるしそのお店も隣駅にありますよ。
仕事中、つなぎ姿の私を見て
先輩:「きみ、ケツでかいなぁ~」
例①:「え、それセクハラですけど」
例②:「つなぎ着てるからそう見えるんでしょ、普通ですよ」
例③:「安定感あるでしょ、投げたら150㎞出まっせ~」
はい、これも③ですね。
ちなみにそんなにケツでかくないです (^^ゞ
誤解のないようにお伝えすると、先輩はこんな感じでちょっと圧が強いですが、とても面白くていい人です。ただ、会話の中でちょいちょい危険球がくるので気が抜けません。
私の場合、このあと逆におもしろ反応を期待されて何かと絡んでくださるようになってしまいました。やりすぎ注意(笑)
私の先輩はともかく、嫌みな人は相手にしないのが一番ですが、何か言い返すなら「ノリツッコミ」を使ってみては如何でしょうか。
ダイレクトに言い返したら相手の思うつぼ、関係悪化間違いなし。
笑いに変えて、余裕を見せてあげましょう。
クスっとさせたもん勝ち
上記の私の職場での会話でもそうですが、緊迫した場面でも相手をクスっと笑わせたらもうこっちのもの、一気に距離が縮まります。
ご紹介した「スカーレット」の場面でも同じ、喜美子のボケに八郎さんが乗っかって笑ったところから、2人の距離がぐっと近くなりました。
相手を説得するのではなくて、空気を柔らかくして相手を笑わせて、
「わかったわかった、もうええわ」
というところまで持っていけたら、こちらの話を受け入れてもらえる素地はできたも同然。
こういうのは常用句としての「もうええわ」に着地させやすいという点でも、関西弁がやりやすいですね。
関西弁はイントネーションだけではない
・・・と、関西人でもないやつが関西弁のコミュニケーションを論じておりますスミマセン。(^^;
言葉としての関西弁が好きになったのは大学時代。あら、もう40年前。
北陸の金沢でしたが、クラスを見回したら面白そうなやつらは関西人の集まりで(当然?)、じわっと彼らの仲間に入れてもらいました。
まだ最初の漫才ブームが始まる前で、ボケだのツッコミだのは関西以外では「何それ?」だったと思います。
静岡と言う地域的主張がすくない田舎からきた男子から見て、金沢は名古屋圏に京都大阪の関西風味が入った文化のように感じました。
民放はたった2チャンネルで、土曜日の昼間には「吉本新喜劇」を放送していたのが関西風。
吉本新喜劇!白状すると、当時の自分には何が面白いのか全く分かりませんでしたねー。
見たことのないギャグの連発に大笑いしている関西人。
ギャグは全くピンとこなかったけど、大笑いしている彼らを見ているのは楽しかったし、へぇ~これが面白いんだー、と思ってました。
そんな彼らに交じっていると、会話にいつもボケとツッコミがあって、否定も肯定も全てやわらかい。
「相手をクスっとさせたほうが勝ち」みたいな会話の流れがあって、実質負けてても「まぁ、そうとも言うな」と、どっちが負けたのかわからない返し方で、気持ち的におあいこになっていたり。
「死ね」みたいなきっつい言葉も笑いに変えてしまう。
最初の頃は、どうしてこんな会話ができるんだろう、なんでそんな言葉思いつくんだろう、と驚きの連続でした。
例で言うのは難しいのですが、昔のダウンタウンの松本人志氏みたいな言葉のチョイスと言ったらいいでしょうか、その頃はまだいなかったけど。勉強させていただきました。
そんなこんなでじわっと関西弁に馴染み、やがて夢も喧嘩も関西弁(ざっくりな)・・・だったのですが今は全くダメでしょうねー。ちょいちょい出ちゃいますが、自信ありません。温かい目で見てやって下さい(笑)
でも、自分のキャラにもあっていたんでしょうね、関西弁コミュニケーションのリズムやテンポや言葉のチョイスに関しては学んだことがしっかり残っていて、空気をやわらかくして相手の懐に入っていくのにずいぶん役立っています(当社比)。
みんなありがとう。
関西弁については、この記事が面白かったです。
● ことばが文化、社会、時代を「伝える」 — 大阪大学
● 河合隼雄さんと「関西弁力」に迫る — 雑誌『広告』
やわらかい相互関係をつくるツールとして
関西弁、便利な言葉だと思います。
それはイントネーションだけじゃなくて、相互関係性をつくりあげていく文化がその中に埋め込まれているからだと思います。
よく「関西弁しゃべる人はみんな面白いんでしょ」みたいなステレオタイプの見かたがあります。
確かに関西弁しゃべってるだけで面白そうなこと言ってくれそうな雰囲気あるんですが、私の知っている関西弁しゃべる人でも面白い人ばかりじゃなくて、ただの押しが強いめんどくさい人とか、逆に関西弁をつまらない自分の免罪符にしてるんじゃないか、ぐらいの人もいますね実際。
心の中で一言、
「お前の関西のお友達はおもろいかもしらんけど、お前はおもろないで」
・・・失礼!!
やっぱり言葉は、しゃべる人によるよねー(^^;
関西人はネイティブ以外の関西弁に非常に厳しいですが、関西に移住した人とか役者さんでもない限り、関西弁のイントネーションを必死で学ぶ必要はないと思います。
本当のことを言うと、関西弁を広めたいなら、英語に○○風がたくさんあるようにもっと寛容になってもいいと思うんですけど、関西弁のイントネーションそのものにアイデンティティを求めている人多いですからね。
もちろん、方言の持つ響きや言い回しそのものに、その土地独特の気持ちの伝え方やニュアンスが含まれるように、関西弁のイントネーションにも大事な表現力が含まれています。
でも、上手な関西弁をしゃべれるようになるよりも、関西弁の持つやわらかい相互関係の作り方を感じて欲しいと思います。
ちょうど今、朝ドラ「スカーレット」で、関西弁コミュニケーションのサンプルを見ることができます。
「こういうやりとり、関西弁だからできるんじゃない?」と思わずに、相手の話の受け方、返し方で、少しでも自分に応用できそうなやりとりをみつけてみませんか?
そして、誰かを「クスッ」とさせてみましょう。
きっと、いい一日になる(笑)