「ぼけますから、よろしくお願いします」という映画をご存知ですか?
大きな劇場では上映していないようですが、妻に誘われて観てきました。
横浜の小劇場「ジャック&ベティ」で朝一番の上映にもかかわらず、6割ぐらいの結構な入り。私たちと同じ年代のご夫婦連れが多かったように思います。
みんな自分事? 介護世代が観たい映画なんですね。
我々介護世代に響く映画「ぼけますから、よろしくお願いします」
撮影・監督の大友直子さんは、私と同い年。
ご両親も、我々夫婦の両親と同じ世代。
ご夫婦のやりとり(いたわりあい、怒鳴りあい)や日常がリアルに自分たちの両親と重なって、全く他人事に思えず、映像にのめり込んでしまいました。
監督であり娘である大友さんが、ご実家のある広島の呉市と東京を行き来する状況と、
今の我々が、静岡の実家と横浜を毎週往復している状況が重なります。
ご実家に帰ると「おぉ、おぉ」と喜んで迎えてくれるご両親の笑顔が切なく、自分の実家のように感情移入。
相方がぼけても、
わけわからんようになっても、
死にたいと言っても、
一日を終えて、次の日を迎えて、もしかしたら次の日は笑ってる。
足腰が弱くなって、
近所のスーパーに行くのも一苦労でも、
買い物には行くし、ごみは出す。
ヘルパーさんに感謝、
子供に感謝、
相方に感謝。
色々、泣いちゃいました。
皆さん、泣いてました。
「ぼける」ことの怖さ
ぼけるにも色々なパターンがあって、色々な環境があって、この映画よりもっと壮絶なことになるかもしれない。
うちの祖父がそうでした。
私が中学生の頃(おぉ、45年前だ…)。
同居していた叔母の手に負えなくなった祖父がうちに来て、私の両親が面倒を見ていましたが、
「おじいちゃんは今日死ぬからね」とか朝から言うわ、
「泥棒~!」と父と取っ組み合いの喧嘩をするわ、
「うちに帰る」と夜に徘徊するわ。
携帯電話なんてなかったころだったので、徘徊には母が泣きながらついて歩いてました。
介護サービスなんてなくて、全て家族でやるのが当たり前でした。
軍隊上がりで体格は良かったので、両親、特に母は大変だったと思います。
「私がああなっちゃったら殺してね」と言っていたのを覚えています。
そんなことできないよ。
映画の中では、
お母さんが洗濯物を廊下にまき散らして、
やがてそのうえで寝てしまう、
という衝撃的なシーンがあって、
もっとすごいのはお父さんがそれをとがめることも無く、ヨッコイショとまたいでトイレにいく、
という日常が映されていました。
それをじっと撮影していた大友さんもつらかったことと思います(このあたりの経緯はテレビで放送されたときにご自身が語っていたようです。記事はこちら)。
娘である大友さんが乳がんになって大変な時、お母さんが示した大きな愛情についても記録されています。
まさか、この優しくて社交的で聡明なお母さんがぼけてしまうなんて見ている方も信じられない、と思ってしまいます。
あのお母さんがぼけるなら、誰がぼけてもおかしくないだろうな・・・
全編を通して、何か事が起きても記録を続ける娘と、それを良しとするご両親には、それぞれの役割にきっちりと線を引いている姿勢が立派だと思いました。
娘さんのやりたいことを最大限尊重しているご両親には頭が下がります。
うちなら絶対「見てないで手伝ってくれよ」って言っちゃうな・・・
ぼけても一緒にいられることの素晴らしさ
それにしても、「ぼけますから、よろしくお願いします」ってすごい言葉だと思いませんか?
これに「はいはい、わかりましたよ」って言えるって、凄いと思いませんか?
長い年月を経た愛情や信頼関係の積み重ねがないと、「はいはい」なんて返事できませんよね。
ここまでの良い人間関係を、人生の晩年までに築けていることが大切なんだと思いました。
だんだんと頭が働かなくなり、耳が遠くなり、体が不自由になって、・・・
歳をとるってこういうことなんだなぁ、ということをリアルに見ることができる映画です。
こういうところ・・・人が年老いて醜くなっていく姿(ごめんなさい)は、身近に体験するまではなかなか見る機会がないと思います。
人間は徐々に、一人では生活ができなくなっていきます。
家族や、ご近所や、お友達や、ヘルパーさんに頼ることも大事です。
他人を素直に受け入れる心を持つことが必要ですね。
身につまされて、感動する、ドキュメンタリー映画でした。
介護が身近な年代の方には是非観ていただきたいなぁ、と思います。
・・・お父さんが、めちゃめちゃ可愛いです。ホント☆