画期的な判決ではないでしょうか。
3月24日、50代男性に「執拗な退職勧奨」を行ったとして、横浜地裁が日立に慰謝料20万円の支払いを命じました。
会社の一方的なオジサン減らしに、待ったをかけるか?
日立で何があったのか
実は他のことを書こうとして筆を進めていたのですが、この記事を見て俄然こっちのことを書きたくなりました。
今までまかり通ってきた、「面談」という名の強要や、「教育」という名の拷問や、「適材適所」という名の不本意な配置変えに対して、裁判所が「それは違法です」と言ってくれたわけですから。
まだ地裁ですが、よく頑張ってくれたと思います。
判決によると、男性は1988年に入社し、2012年から課長としてソフトウエア関連の業務に従事。2016年4月以降は課長職となり、業務管理をおこなっていたそうです。
- 2016年8月から計8回、部長と個別でキャリア面談
- その中で、日立グループ内異動や社外の転職支援を薦められた
- 部長「仕事のアウトプットが雑すぎ」「期限を守れない」
- それまで評価されてきたのに、いきなり手のひらを返された印象
- 男性、4回目の面談で「日立を辞めるつもりはない」
- その後も面談は実施
- 部長「給料が下がったら、社外転身を考えるのか」「できないのに高い給料だけもらっているって、おかしいよね?」
- 16年8~12月、8回の個別面談。早期退職を繰り返し迫る
- 部長「君の能力を生かせる仕事はない」「能力がなくても高い給料を払ってくれるのが(日立の)魅力ならそう言ってほしい」
- 男性、社外の労働組合に入って団体交渉を申しこむ
- 面談なくなる。人事評価は下がり、給料やボーナスが減った。
元記事(以下同じ):
●日立が50代男性に「執拗な退職勧奨」、慰謝料20万円の支払い命じる 横浜地裁(弁護士ドットコム) - Yahoo!ニュース
●日立に20万円支払い命令 違法な退職勧奨、横浜地裁 :日本経済新聞
●日立が50代男性に「執拗な退職勧奨」、慰謝料20万円の支払い命じる 横浜地裁 - 記事詳細|Infoseekニュース
●「仕事、社外ならあるよ」 日立社員が受けた違法な面談:朝日新聞デジタル(有料記事)
判決の内容
判決内容より。
- 一旦退職に応じない旨を示した従業員に対して、退職勧奨の説得を続けること自体は「直ちに禁止されるものではない」が、
- 部長による退職勧奨は「相当程度執拗」である。
執拗とされる行為は、
- 「退職以外の選択肢についていわば八方塞がりの状況にあるかのような印象を、現実以上に抱かせるもの」と指摘された行為 ・・・裏づけなく他部署での受け入れの可能性が低いことをほのめかしたり、他の従業員のポジションを奪う必要があるといった男性を困惑させるような発言をしたりすること
- 「男性の自尊心をことさら傷つけ困惑させる言動」と指摘された行為 ・・・面談の中で、能力がないのに高い賃金をもらっているなどといった部長の発言
結論として、
- 部長による退職勧奨は「不当に抑圧して精神的苦痛を与えるもの」で社会通念上相当と認められる範囲を逸脱したものと認めた。
選択肢がないように思わせる「八方ふさがり作戦」、自尊心を傷つけて支配的立場をとる「メンタルへし折り作戦」、これからは使いにくくなるかもしれません。
一方、
- 男性を叱る内容のメールを社員ら約30人に一斉に送ったことについては「部下への指導に際し配慮が十分でない」としたものの、1回だけだったなどとしてパワハラには該当しないと結論付けた。
1回ならパワハラにならない?そういうものではないと思いますが…
この他にも部長から男性には、会議の席上で公然と非難したり、侮辱する発言があったり、明らかに査定が下がったり、といった不当な扱いがあったそうです(経験あるなぁ…思い出したくない^^;)
まさに追い出し体制。相当つらい状態だったと思われます。
許さない!一方的なリストラ
今回の判決は、これから同じような面談に臨むことになる人にとっては心強いものになると思います。執拗な退職勧奨は違法である、と示されたのですから。
ひとつ気を付けることは、
- 面談を録音しておくこと
男性は面談を録音しており、「証拠としても大きかったし、主張の正当性が認められたポイントだと思う。きちんと録音して記録することが大事」と話した。
男性は判決後の記者会見で、「面談が続く間、仕事もさせてもらえず追い詰められ絶望を感じた」と話し、パワハラなどについての主張が一部認められなかったとして控訴する意向を示したそうです。
日立製作所のコメント:「判決内容を精査し、今後の対応を検討します」
裁判は、まだ続きそうです。
リストラの流れは確実にある
年初に、こんなコラムを書きました。
ざっくり言うと、50代おじさん世代への世間の目が厳しくなっているのに乗じて、企業が人減らしを進めようとしていないだろうか… という内容です。
働かない「妖精さん」を追いつめる、時代の圧力
働かないおじさん問題。「会社の妖精」という使いやすいワードで、定年前世代を見る目が一層厳しくなっているのを感じます。関連する記事もしばしば目にするようになりました。…ということで、久しぶりにこの問題をとりあげてみました。あなたの会社ではどうですか?
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これからリストラを考えている企業は、この判決で今までのやり方を見直さざるを得ないと思います。
しかし日立などの電気産業も含めて、大量生産大量消費に支えられてきた産業が先細りで、バブル期に大量雇用した社員を支えられなくなっていくことが明白である今、リストラや賃金カットは企業生き残りのために必要な流れでしょう。
前職でも、リーマンショック前後に何回かの大リストラを経験しました。某企業での「追い出し部屋」なるものが世間をにぎわしていたころです。
一時期は経営側にいたこともあり、「リストラマニュアル」なるものの存在も知っていたので、日立でどんなことが行われていたのかは大体想像がつきます。
幸いにして私は圧迫面談をうけることはありませんでしたが、昨日まで隣に座っていた仲間や優秀だった沢山の同期が、涙をのんで会社を去って行きました。
私自身、危ない時期もあったと思います。
会社合併の先頭に立っていたことがあり、その反動でしょうか、合併後にひとり超アウェイの職場に送られて死んだふりをしていた時期がありました。いや決して妖精化していたわけではなく、ちゃんと働いてましたよ^^。お陰で?何とか生き残りましたが、評価はガタ下がりでした(笑)
あのころにリストラがあったら、間違いなくヤラれていただろうな… 喜んで応じていたかもしれませんけど。(^-^;
人を賄えるだけの収益や新しい事業を創りだしていくのが企業のあるべき姿ですが、体力があるうちに人件費や人員構成の適正化を図ろうとするのは、企業としては当然の考えだと思います。
ただ、従業員をコストとしか考えない経営者にはNOを言いたいですね。
会社に依存しない自分になろう
今年に入ってからのコロナウイルスの影響で景気は下方修正され、リストラの動きが加速されるかもしれません。
特に電気産業で働く皆さん(かつての私も)には、厳しい現実が待っているかもしれません。
しかし、今回の判決でひとつの基準が生まれました。
経団連は、終身雇用や年功序列など「日本型雇用」の見直しを訴えている。
電気情報ユニオンによると、2008年のリーマンショック以降、2019年までに電気産業114企業の社員のうち、公表されただけで約2割にあたる50万8413人が人員削減の対象となっているという。
代理人の高橋宏弁護士は「電気産業はリストラが続くと言われている。残りたいという意思を明確にしておけば、執拗な説得は違法であると明確になった」と判決の意義を語った。
●日立が50代男性に「執拗な退職勧奨」、慰謝料20万円の支払い命じる 横浜地裁(弁護士ドットコム) - Yahoo!ニュース
「残りたいという意思」を明確に示すこと、これが必要です。
ただし、それもまた厳しい道だということは覚悟しないといけないでしょう。
会社にどう貢献していくのか。
会社にとって必要な人であり続けるには。
「妖精さん」と呼ばれたり、「働かないオジサン」と指をさされているような人を養っていけるほど、会社にも余裕はないはずです。
執拗な説得は控えたとしても、会社側は新たな手法で人件費を減らしてくるでしょう。
武器を持ちましょう。
会社に残っても、会社を去っても、どちらでもいい。
いざとなれば、会社がなくても大丈夫な自分を目指しましょう。
…というようなことを書きました ↓
「働かないオジサン」にも、理由はあるのだ
働かないオジサン問題、続けます。 前回久々に「働かないオジサン」問題について書きましたが、 アップした次の日に、朝日新聞さんが違う角度からの特集ページを組んできました。 簡単に言うと、「オジサンを活用できていない会社にも責任があるのでは」と ...
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